私の社長復帰に伴い、専務と工場長、そして何名かの役員がその責任をとるために
会社を去った。
そして息子二人を本部長に据えて、新生シナガワがスタートを切ったのが
2010年の4月の事だった。
まずは、経営体制の再編として、統轄本部の人事にメスを入れた。
年配の役員がいなくなったのを良い事に、一気に若者だけの経営にシフトした。
そのため、経営会議には私は参加しないことにした。
代わりに都度議事録で報告してもらうことにした。
これは、若い者達で何事も考え、決断させるためにあえてそうしたのだ。
最初は何かとぎこちなく、そして頼りなかった若者陣も、だんだん板についてきて
スムースに事が運ぶようになってきた。
しかし、そんな彼らにとって一番難しいのは人事だろう。
なんせ相手は人だから、指導、説得、決断と、難しい場面に直面する。
だが、ここで私が手取り足取り教えては元の木阿弥。
彼らの成長を妨げてしまう。
とにかく場数を踏んで体全体で体験し、後は時間が解決してくれるだろうと願う。
修羅場、土壇場、正念場
そんな彼らの成長の為に、私は常々「三場を経験しろ」と言っている。
三場とは修羅場、土壇場、正念場のことである。
修羅場とは激しい争いの場である。
土壇場は切羽詰った、ぎりぎり最後の場。
そして正念場は本領を発揮すべき重要な場のことである。
いずれも、できれば避けて通りたいような過酷な状況だ。
しかしこれらを決して避けて通ることなく、自ら進んでくぐり抜けることで
胆力が着くのである。
胆力とは、本当に腹が据わった時に出る、ものに動じない精神力だ。
経営者とは、この「腹が据わった」状態でないと対処できないことが
たくさんあるものである。
そして、格好良くやろうと思うなとも言っている。
格好悪くても良いから、這いずり回って自分たちに課せられた仕事をこなすうちに、
新しい道が開けてくる。
これは私自身の経験から、そういうものだとはっきり言える。
だからこの新生シナガワの若い経営陣には、経営者として腹を据えること、
そして格好悪くてもやり抜く実践力を身につけてもらいたいと思っている。
これからの若い人たちには古い慣習に捕われず、自分自身の個性を存分に
発揮してもらいたいものだ。
今の(株)シナガワでは、そんな若い人たちのアイディアで次々と
新しくなっていっている。
その一例が展示会への出展だ。
これまでの当社の展示内容とは違ってユニークな展示内容に変化してきている。
主には中小企業総合展と東大阪産業展に主力を置き、宣伝広報活動を行っている。
(株)シナガワが若い人の力でどう変化していっているかは、展示会を覗いて頂ければ
その一端をお見せ出来るだろう。
さて、私からみて創業者と二代目との違いをざっとまとめてみた。
<創業者の特徴>
・良い意味でも悪い意味でも個性的である。
・ワンマン経営
・開拓者精神が旺盛
・低学歴
・情熱的
・公私混同有り
・短気
・理屈より情を優先させる
・変化への対応が早い
・粘り強い
・口うるさい
・細かいところに気がつく
・行動力がある
・くよくよしない
・気分転換が早い。
・仕事が趣味
・朝令暮改
<二代目経営者の特徴>
・真面目
・合理主義
・管理型経営
・高学歴
・冷静
・公私混同しない
・気が長い
・情より理屈を優先
・変化への対応が苦手
・あきらめが早い
・話し方が上手い
・人脈が多い
・慎重
・くよくよ悩みやすい
・功を急ぐ
・物わかりが良い
・仕事と趣味をきっちり分ける
・決めた通り実行
・優柔不断
以上が、私が感じる創業者と二代目の違いだ。
おしなべて、二代目経営者には天から与えられた大きな器がすでにあるものだ。
ここは創業者とは大きく違う。
写瓶
船場商法に「写瓶」という言葉がある。
一つの器から水を一滴も漏らさず移すように商いを受け継ぐことである。
大方、多くの親子関係にある創業者と二代目は、その生い立ちから生じた価値観の違いがあり、
相容れない部分も多いと思う。
しかし、この「写瓶」という言葉通り、一滴たりとも漏らさず受け継げば、
ごく自然な形で二代目のカラーがにじみ出て、創業者の良さと二代目の良さが
融合されるものである。
また、事業を引き継いだ当初は先代と同じようなやり方を示すと、周囲の人間も安心し、
いらぬ軋轢は生まれにくくなる。
そして信頼を勝ち取ってから、徐々に自分の力を発揮していけば良い。
まずは二代目経営者は、その器の大きさを認識しながら、引き継いだ器を有り難く
受け取れば良いのだ。
この変化の激しい時代においては、絶えず時代の先を読み、
即断即決していかなくてはならない。
そのためには、少なくとも5年から10年先の事業展開のイメージは
頭に描けていなくてはならない。
そこに必要なものは、自らの事業を発展、継続させる夢と気迫を持つことだ。
さて最後に、二代目に期待したい事をまとめておこうと思う。
創業者は得てして古参の社員を重用する傾向にある。
もちろんそれは当然ではあるが、しかし二代目にバトンタッチするならば、
その時々の時代の変化に合わせて役員人事も整理してから身を引きたいものだ。
そうやって創業者が後始末をきちんとし終わってからという前提で話を進めよう。
天から与えられた器
これから事業を引き継ぐ二代目経営者の方々には、今まで社内で出来なかった夢を
自由に思い描き、形にしていって欲しいと思う。
そして形にしていくプロセスでは、当然社内一丸となって取り組んでいってもらいたい。
夢を描き、牽引していくのは経営者の務めだが、しかし、経営者の独りよがりでは事は進まない。
社内の協力体制があってこその改革である。
また、製造業であれば現場の工場の合理化、または移転問題、設備機械の開発、
海外進出等、大きなテーマもあることだろう。
しかし、こういった大きなテーマも、代替わりしたときがチャンスである。
また、従業員の働きやすい環境づくりも、今の時代のニーズに合わせて見直したいところだ。
おそらく、事業を引き継いだ当初は寝る時間も無いぐらいに問題や課題が
山積していることだろう。
順風満帆に継承できることは、まず少ないはずだ。
しかし、繰り返し言おう。
天から与えられた大きな器を生かすも殺すも自分次第だ。
有り難く受け取ってもらいたいと思う。
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