明けましておめでとうございます。
もう1月も末となってしまったが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、昨年末にNPO法人東大阪地域活性化支援機構について書いた。
今回は引き続き、そのNPOの活動について書いてみたいと思う。
実は、昨年末の原稿を書き終えてすぐ、NPOの事務局長が急遽入院することになった。
突然の連絡に驚き、すぐに病院へお見舞いに行った。
入院先は堺市にある国立病院、「近畿中央胸部疾患センター」だ。
この度行ってみる迄、国立の胸部専門の病院があるとは知らなかった。
お見舞いに行って様子を伺うと、事務局長の容態はしばらくの治療と安静が
必要とのこと。
ご本人にとっても突然であったことだろう。
しかし、私にとっても突然であり、大変ショックだった。
このNPOの事業の一つである「東大阪市ものづくり体験教室」は、
とにかく事務局長に全てお任でやってきた。
まさに「おんぶに抱っこ」の状態でこの10年続いていたのだ。
そのため、今年度の教室がまだ終了していない状態での事務局長入院という事態は、
本当に困ったものだ。
誰も引き継ぎ手がいない状態なのだ。
この「東大阪市ものづくり体験教室」は、東大阪市からの委託事業として当NPOが
引き受けている。
なかでも事務局長が担う役割は大きい。
まずは、1万人の希望児童のうち、どの小学校で授業を行うかを選定する。
今年度は4,500人を対象に授業を行ったが、市の予算の都合により、
希望児童の半分にも満たないのが現状だ。
全ての児童に体験教室を実施したいところだが、中々そうはいかないので、
毎年調整しながら対象校を選定している。
その後、学校側との細かな調整や段取り、そして講師の選定、手配等、事務局長の
仕事は多岐にわたる。
そしてその期間は6月から翌年の2月までの8ヶ月間と長く、148教室に対応する。
この間事務局長は全クラスに出席して、授業の冒頭に「ものづくりの街東大阪市」
について子どもたちに解説し、授業中は講師のサポートを行う。
授業時間は2時限(90分)を一コマとして、午前2コマ、午後1コマあり、
非常にハードな任務となっている。
これだけハードな任務を担っていた事務局長が、年末に突然の入院。
急遽進捗書類を渡されて、「後はお願いします。」と突然任されたのだから
大変である。
何をすれば良いのやら、さっぱり分からない。
昨年の10月にNPOの理事長が逝去されたばかりで、役員一同途方に暮れていた
ところへ、さらに追い打ちをかけるように今回理事長が急遽入院となった。
しかし委託された事業を放り出すわけにはいかないので、とにかく手探りで
色々進めてみて、改めて事務局の役割の大きさを知った次第である。
実はこの「東大阪市ものづくり体験教室」事業は、我々NPOの役員だけでなく、
市の職員も学校も、教育委員会も皆、事務局長に頼り切りであったことがこの度
良く分かった。
事の次第が明らかになるにつれ、事務局長の偉大な行為に敬服すると同時に、
これは誰でも出来る仕事ではないことがはっきり分かった。
単に事務処理能力に長けた人間というだけでなく、子どもたちへの教育に情熱を持ち、
さらにものづくりに関しての知識も持ち合わていなくてはならない。
そんな人材が簡単に見つかるとは思えない。
さぁ、どうするか。
役員の間では、もうこの事業自体をやめようという声もあった。
私自身もそう思っていた。
しかし、まずは残りの授業を行わないといけないので、私も現場の小学校へ初めて
行って参加してみた。
小学校に行ってみると、まずは校長先生、教頭先生の丁重な挨拶を頂き、
理科教室へ入った。
そして、事務局長の代わりに私が、ものづくりの街東大阪市の説明を行った。
5年生の子どもたちに私の話が理解できるのか?
そして伝わるのか?
不安もあったが、なんとか15分間喋りきった。
その間、子どもたちはおとなしく話を聞いてくれた。
その日は磁石についての授業だった。
磁石というものについてはある程度知っているつもりだったが、話を聞くうちに
私も知らないような内容が飛び出し、いつの間にか聞き入ってしまった。
大人の私が聞いても初めて知ることも多く、実に面白い内容の授業だ。
磁石の授業内容は、大まかにこんな内容だ。
・あなたのお家に磁石は何個ある?
・磁石はどこの国で発明されたか?
・磁石にはどんな種類がある?
・磁石発見器を作ろう!
子どもたちにとっても、おそらく今まで聞いたことの無いような内容だったのだろう。
話を聞くうちに、気がつけば子どもたちも自然に引き込まれていった。
磁石についての話の次は、工作に入る。
カッターで紙を切り、不思議なフィルムを貼付ける。
一体これで何ができるのかと思うと、実はこれが「磁石発見器」なのである。
家の中の家電製品や様々な機械にこの紙に貼ったフィルムをかざすと、
不思議なことに磁石が仕込まれた部分に反応してフィルムの色が変わる。
なんとも手品のような感じだ。
この「磁石発見器」は、子どもたちが家に持ち帰ることができる。
そして家に帰って色んな場所にこっそり使われている磁石をどんどん見つけて
いって欲しい。
講師の先生のサポーターとして、私も子どもたちの作業を手伝った。
カッターを上手に使えない子、物差しで寸法を計れない子、身体が不自由で手が旨く
使えない子、、、いろんな子どもたちを手伝いながら、考えた。
「ものづくり体験教室に参加した子どもたちは、目の輝きが違うよ。」と
話には聞いていたが、こんなに真剣で、一生懸命なものだとは思っていなかった。
何とも言えない熱気を感じながら、現場を一度も見ず、ただ話だけを聞いて、
分かったような気になっていた自分を恥じた。
このものづくり体験教室の講師をして下さっている企業の皆さんは、日当も無し、
交通費も無し。
皆、手弁当でこんなに素晴らしい授業をやって下さっていたのだ。
何一つ文句言う人も無く、10年もこれが続けられてこれたのだ。
これは偉大なことだと改めて感じた。
子どもたちが喜び、目を輝かせる瞬間を目の当たりにした私には、なんとも言えない
爽やかな達成感があった。
この事業は銭金の問題ではない。なんとしても続けていきたいと思った。
今ここで学んでいる子どもたちは、将来の日本を背負って立つ大事な人材だ。
しかし我々大人は、そんな未来の人材に向けて、本当に必要な教育を行って
いるのだろうか?
子どもたちを教育する場は、果たして学校だけで良いのか?
我々の血税が、どれほど子どもたちのために使われているのか?
この日は様々な疑問が頭の中に湧いた。
そしてなぜ、中小企業の社長連中が、ボランティアで小学校にやってきて、
わざわざ出前ものづくり体験教室を行っているのかを考えてみて欲しい。
最初NPOで、東大阪市のこの事業を引受けたときは、製造業の仕事やモノ作りを教えて、
子どもたちにその面白さを知ってもらいたいと思ったので引受けた。
東大阪がモノ作りの街でありながら、そのことを子どもたちはほとんど知らない。
そして我々企業人にとっては、将来の良い人材への投資であると思ったからだ。
そんな我々の思いが実り、東大阪市全体にこのものづくり体験教室が知れ渡った。
そして申込が年々殺到するまでになった。
1万人の応募がある今では、予算の許す限り、できるだけ多くの子どもたちに
体験してもらいたいと思っている。
今入院中の事務局長が育てたこの事業は、もう簡単に辞めるとは言えない。
しかし、これ以上多くの人にボランティアをお願いするのにも無理がある。
さあ、これからどうするか。
市役所、教育委員会、商工会議所、そして中小企業の皆さんと、本気で話し合いを
せねばならない。
そして、次世代を育てるこの事業に力を貸していただきたい。
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